ブートレグの現在地”を可視化する、次世代ヴィンテージの実験室
もし、90年代の原宿~2000年代の渋谷を歩き尽くしたあなたなら、あのとき胸を焦がした 「誰かのいたずら心が宿る一点モノ」 への渇望を忘れていないはずだ。そんなノスタルジーを現代のストリートへワープさせる仕掛け人が、坂本 一――そして彼のオンライン発信基地 INSTANT BOOTLEG STORE である。
“素敵な小遣いの使い方”という旗印
坂本は原宿の名店〈BerBerJin〉でバイヤーを務め、セレクトショップ〈FAN〉を経て2020年に本ストアを立ち上げた。テーマはずばり 「素敵な小遣いの使い方」。少年時代に500円玉を握りしめてレコードを漁ったあの高揚感を、大人になった今こそもう一度呼び覚まそうという目論見だ。
“NEW VINTAGE” の旗手が拾い上げる未評価の名品
彼が再定義するのは NEW VINTAGE――まだ市場価値が付いていない90〜00年代のユニフォームや企業ロゴ刺繍モノを、アウトドアやワークの名品ボディにのせて再構築する試みだ。パタゴニアのダウンにボストンのビールブランドが踊り、エディー・バウアーのフリースにテキサス産クラフトビールの刺繍が走る。
「機能と物語が偶然重なった瞬間にだけ生まれる“グルーヴ”を拾いたい」と坂本は言う。アイテムはすべて一点モノ、しかも1万円台から――ハイプに振り切らず、日常へ滑り込ませる価格設計が嬉しい。
オンライン×POP‑UPで拡張するコミュニティ
メイン動線はオンラインストアだが、彼は年数回のPOP‑UPを各地で敢行する。たとえば金沢〈PAN〉で開催された “Central Park” では、L.L.BeanとEddie Bauerのニュー・ヴィンテージだけを集めてNYのセントラルパークを再現。地方のカルチャー好きが列を成したという。場所を選ばないフットワークとローカルへの愛着――この二律背反が、INSTANT BOOTLEG STOREをただのECで終わらせない。
“買うこと”がカルチャー体験になる
各商品ページには数百字の解説とスタイリング提案が並び、NFCタグをかざせば製造年・企業背景・デザイナーコメントまで読める仕組みだ。購入の瞬間からカルチャーの深掘りが始まり、気づけば音楽や映画、ひいては旅の計画に派生する――これこそ坂本が狙う 「小遣いの投資先=経験値」 のアップデートである。
“BOOTLEG”の語感に眉をひそめる向きもいるかもしれない。しかしここで行われているのは模倣でもコピーでもない。オリジナルを敬いながら再解釈し、次世代へ橋渡しするカルチャー編集 そのものだ。あなたのクローゼットに余白があるなら、まずは一本。ストリートを知る者として保証しよう――その一着は、数年後に “語れる思い出” へと育つ。